「奇跡のショップ」が本気で取り組むゴルフDX 業界を変えていく物語をつくる

市川雄一郎 株式会社OGS代表取締役

1975年生まれ。大学中退後、テレビ制作会社、出版社などのメディア系の職種を経て、株式会社ゴルフダイジェスト・オンラインに就職。多くのゴルフメーカー、パーツメーカー、プロゴルファーを取材し、ゴルファーへ最新の情報を発信する仕事にかかわる。2011年に大蔵ゴルフスタジオ町田店をオープンし、2016年に大蔵ゴルフスタジオ世田谷店をオープン。自らゴルフ用品の販売やクラブフィッティングを行う傍ら、2020年にはハワイ店をオープン。INCLUSIVE代表取締役社長の藤田誠とは大学生時代からの友人。


INCLUSIVEグループにジョインした「奇跡のショップ」大蔵ゴルフスタジオ(OGS)とは?

——2021年10月に大蔵ゴルフスタジオ(OGS)がINCLUSIVEグループ入りをしましたが、なぜメディア支援のINCLUSIVEがゴルフショップと連携? 藤田社長の趣味? と社内がざわつきました。

そうですよね。僕も藤田社長も本気のゴルファーですから。でも、藤田社長は経営者としてシビアに見て投資を決めていますよ。藤田社長と僕がこれからやろうとしていることはINCLUSIVEにとってもOGSにとっても事業を大きく成長させるチャンスなんです。

——OGSはゴルフ界では「奇跡のショップ」といわれていると聞きました。どのような業容なのかを教えてください。

OGSはゴルフクラブフィッティングショップです。世田谷とハワイの2店舗があります。

ゴルフはギアが大切なスポーツなのですが、中でもクラブの真ん中の棒“シャフト”が合っているかどうかでスイングがかなり違ってきます。このシャフトはカスタマイズできて、シャフトを選ぶことがフィッティングそのものに近いです。試打したときどう感じたか?が重要で、その感覚と結果からお客様に合う最高の1本をアレンジするのがクラブフィッティングサービスです。

そのため、ショップには1800本ものシャフトを置いていますが、そんなゴルフショップは世田谷店オープン時、日本中でOGS一店舗しかなかったと思います。ほぼオンリーワンの存在です。世田谷のショップをオープンして5年になりますが、日本全国からお客様の予約が入るので、開店初月から常に2週間から3週間お待ちいただくような状況です。

クラブは一度売って終わりではなく、ゴルファーの成長に合わせてクラブも変えていくので、パートナーとして長い付き合いになります。しかも、新商品がどんどん出るので、ゴルファーはどれもこれもほしくなるんですよ。合っていないクラブを買って売ってを繰り返す人が多いんです。無駄遣いをさせない、というのも僕たちの役目です。

ゴルフ業界の古い慣習に疑問を感じ、次世代ゴルフビジネスで独立

——市川さんの前職は会社員ですね。独立してクラブフィッティング事業を始めた経緯を教えてください。

大学中退後、様々なメディア系の会社を経て、東証一部上場のゴルフメディア企業に就職しました。ここではメーカーや業界の情報が入りやすく、「これからはシャフトをひとりひとりカスタマイズできる時代になる」ということが予見できたんですね。それまでは、一部のゴルファーだけが得られるサービスだったんです。

合っていないクラブでいくらレッスンを受けても伸びないことはみんな薄々わかっていて、でもゴルフ業界はかなり古い体質で「プロ先生の言う通り」にする世界。先生の「長年の勘」に頼ってクラブも選ぶんです。どんどん新製品が出ているのに30年前の知識しかない先生の助言で選ばざるをえない。こだわろうとすれば、コアな道具屋の頑固親父が「これ使っとけ」。1本10万も20万もするクラブなのにナンセンスですよね。自分で選びたいし、サービスとしてちゃんとしていない。ここを変えていきたいとずっと思っていたんです。

そこで、先行しているアメリカのクラブフィッティングショップに視察にいきました。その企業はアメリカ全土で120店舗を展開していて、日本のゴルファー人口と比較してもいけると思い、2012年に独立しました。

——日本におけるゴルフクラブフィッティングショップの草分けであり、現在も稀有なショップですね。

この品揃えができているフィッティングショップはほとんど無いですね。そして、圧倒的な量の知識とノウハウがこの10年でできました。フィッティングをこなしてきた数は、日本一と言えると思います。でも、自分ではその価値に気づいていませんでした。気づかせてくれたのは藤田社長です。

藤田社長は僕の学生時代の友人で、独立した時期もだいたい同じぐらい。彼がゴルフを始めたからと僕のお店に来てくれて。本人の努力もありますが、道具があっているから、あれよあれよとうまくなって。そうすると、みんな「どこのクラブ?」と聞きますよね。紹介いただいてIT企業役員のお客様が増えました。と同時に、「そのクラブ“世田谷”?」と聞かれることも多いと言うんです。藤田社長曰く「市川さん、気づいてないけどゴルファーの間では有名だよ」と。自分はゴルフ好きのために無我夢中でやってきただけなので、そうなんだ、と思いました。

ゴルフを愛する者としてゴルフ業界を変えるDXを目指す

——評価も高く、予約が1か月待ちという状況であれば次は多店舗展開でしょうか。

もちろん国内外からフランチャイズのオファーがたくさんあります。でも、人材の面で難しくお断りしてきました。フィッターを育てるのが難しいんです。

ゴルフの知識に加えて、1800本分もの最新の商品知識をインプットして、それぞれの人の「感じること」とフィットさせる能力と意欲が必要です。フィッティングには「感じること」が重要なのですが、ゴルファー本人が言語化しづらいことを引き出すコミュニケーション能力が必要になるんです。これを兼ね備える人材を育成するのが、僕一人の力では無理でした。

やっぱりDXしかないと一人取り組んではいたのですが、日々の業務で滞ってしまって進まず…。そこで藤田社長が一緒にやろうと言ってくれたんです。実は同様のオファーを他社からも多数受けていましたが、全く迷いはありませんでした。藤田社長も「業界のトップランナーをおさえられたことは大きい」と言っています。

——今後はどのようなことを目指しているのでしょうか?

この10年、日本で誰よりも個々のゴルファーに寄り添って、商品知識のアップデートにも努めてきたと思います。メーカーさんからも「奇跡のショップ」と呼ばれ、非常に高い評価をいただいています。加えて新規参入がしづらい状況もある。ゴルフメーカーはほぼアメリカと日本にしかなく、現在は全世界的に生産が滞ってモノ不足の時代なので、仕入れが必要になるショップは新規参入がしづらいんです。ここも追い風ですね。

この間に、今まで属人的だった独自のメソッドをデータ化し、スタッフがお客様とのコミュニケーションに集中できるシステムをつくります。多店舗展開もでき、全国7000人いるといわれているレッスンプロにも使ってもらえるシステムづくりを目指しています。その上で、独自のメディア展開も視野に入れています。藤田社長はゴルファーが何を求めているかよくわかっていますしね。

グループに入って、組織づくりや開発のプロが揃ってくれたおかげで、一気にことが進み始めました。具体的なサービスを紹介できる日は、そんなにお待たせしないと思います。

——まさに、業界を変える「ゴルフDX」を目指している。

今まで「ゴルフが好き」という人は、メーカーかゴルフ場に入るしか選択肢がありませんでした。ゴルフがうまくないけど好きだからこれで食べていきたいという人もご飯が食べられる業界になってほしいんです。独立希望もいいと思いますよ。業界の裾野を広げ、若い人にとっても魅力ある業界に変革したいという野望があります。

ゴルフに熱狂している藤田社長と僕の二人が本気で取り組んで、ゴルフ業界を変えていく物語をぜひ見ていてほしいと思います。